衝動性には参ってます。
こんにちはー、チバPです。
衝動ですよ⋯いやー、参りますねこれは。共感して頂ける方とそうでもない方がいらっしゃると思いますが、ふーんメンドイね。って感じに読んでみてくださいな。
衝動が来ると何が一番めんどくさいかと言うと、「眠れなくなる」ですねー。
おめめパッチラコ。
ここで言うチバP的衝動は、これがしたい!とか、カメ飼いたい!とか、こうしたら上手くいっちゃうんじゃね?っていう思い付きなどのことです。
うーん、説明って難しいですねー。本人(チバP)以外分からねんじゃね?っていう内容になってきましたよこれは。非常にまずいのですが⋯このまま進めちゃいまーす。
それでですね、衝動はもう気持ち的に抑えが効かないんですよ。ドキドキしちゃってもー。今やらないと!っていう気持ちの爆発ですよ。
今日か明日の世界に生きておりますので、「後々に⋯」とか「計画的に⋯」とかチョー苦手です。
段階を踏めないで墜落していくタイプですねーチバPは。どうしましょう。どうにも出来ませんねー。
衝動の波が過ぎるのをドキドキおめめパッチラコで待つしか無いですねー。
と、いうことで、今回載せる小説は、「眠り」に関する小説です。ゆるりゆるゆるとテケトーに読んでくださいまし。
普通に眠ってもらいたい
私の家族は、種類は違うが「睡眠」に問題を抱えている、と私は常々感じている。そのため私は、家族の睡眠問題を少しでも改善すべく、さりげなく、しかし適切なアドバイスをするように心がけている。のだが、今現在のところこの問題は、悪化はしても改善が一向に見られていない。つまり、残念ながら私の小さな努力は、小さな泡となりパチリと消えているのである。だからといって、私は努力を諦めるわけにはいかない。だって、心配だから。私以外の家族全員が、睡眠という健康や人生を左右する重要な行為に問題を抱え続けるのは、とても心配だから。
これから私は、家族一人一人の睡眠問題について話していくつもりである。が、その前に、私の家族構成を知ってもらいたい。私が今暮らす家には、母、父、祖母、兄、私の4人が居る。他にも都会で暮らす姉が一人居るのだが、姉は一人暮らしが長いため、私は姉の睡眠に関して、その多くを知らない。が、少しはその苦労を知っている。と言うのも、姉と父は同じ睡眠の問題を抱えているのからである。
それでは本題に入っていこう。
まず一人目は私の母である。母曰く、自分には毎日一日の半分、つまり12時間の睡眠が必要なのだと。
「ねえ、寝すぎるのも体に悪いらしいよ。テレビで偉い先生が言ってた。お母さんももう少し、起きてた方が良いんじゃない?それか、もっと早く起きるとか。」
学校から帰って来た私は、ノンカフェインで体に良いという、ルイボスティーを飲みながら、台所でザクザクと野菜を刻む母に話しかけた。
母は毎日、夜の9時から朝の9時までしっかりと布団をかぶり、目を閉じて眠る。そのため朝食の支度は、私と祖母、または祖母と兄が行う事になっている。
母はたとえ強い地震が起こっても、寝室は2階に在るし、お父さんがいるから大丈夫だと自信満々に眠っている。そのお父さんはサッサと避難してしまうというのに。
身の安全よりも寝ることを優先させるなんて、やはりどこかがおかしくなっているに違いない。
「あらどうして?私、全然寝すぎてなんかいないのに。いい咲ちゃん?寝すぎるって言うのはね、二日間くらいずっと、トイレ休息も入れずに眠り続けることを言うのよ?」
母は刻み終えた野菜とひき肉をボウルに入れ、手でグニグニと混ぜ始めた。今日の夕飯は餃子であるらしい。
「二日間って⋯そんなに眠れるわけ無いじゃん。赤ちゃんにだって無理だよ!」
私は反論した。いくらなんでもトイレにも行かずに、二日間眠り続けるなんて出来っこない。
「当たり前じゃないの。赤ちゃんはミルクを定期的に飲まないと栄養不足になっちゃうんだから。それに二日間くらい簡単に眠れちゃうものよ?私が咲ちゃんと同じくらいの歳には、三日間は眠れたわ。今ではもう、そんな元気は無いけどね。さあ、具を皮で包むから、咲ちゃんも手伝って。」
「はーい。」
私の提案は、一度たりとも母に受け入れられたためしは無い。
私と母は、ボウルの中の餡をスプーンですくい、餃子の皮に次々と包んでいった。
母は楽し気に歌を歌いながら、リズム良く餃子を完成させていた。
「お母さんってどうしてそんなに寝るのが好きなんだろう?私も嫌いじゃ無いけど、お母さんには完璧に負けてるよ。コテンパンだよ。」
私は5つ目の餃子を完成させ、お皿に置いた。
「何言ってるのよ咲ちゃん、好きなわけ無いでしょう?むしろ嫌いよ!憎しみすら感じているわ。」
母は10個目の餃子を完成させ、お皿に置いた。
「え!嘘でしょ?だってお母さん、12時間も眠ってるじゃん!しかも毎日!好きじゃなきゃ出来っこないよ絶対に!」
母の発現に私はまたもや反論した。
普通に考えておかしすぎる。
「好きじゃ無くても出来ちゃうのよ、これが。というか、お母さんの場合、「しなければいけない」が正解ね。本当に厄介だわ。私だってもっとゆっくりと人生を楽しみたいのよ?大好きな読書だってもっともっとしたいの。でもね、とても残念なことに、お母さんには時間が無いのよ。一日の半分を睡眠時間に充てなくてはいけないから。咲ちゃんはまだ知らないと思うけど、家事って終わりが見えないくらい多いのよ?どんどんどんどん溜まる一方で、ちっとも減らないの。その家事を毎日抱えているお母さんは、「時間」がとっても少ないの。昔は悩んだものよ。昔っていっても結婚をした後のことだけど。実家に居た頃は気にした事すら無かったの。ふう、今の若い人たちは夫婦で家事の分担、とか当たり前じゃない?でもお母さんの若い頃は、家事は女の仕事って決定されていたから、本当に、若い頃は苦労したわ。でもお母さんには、おばあちゃんが居たからね。一人で背負い込む事態にはならなくて、良かったわ。」
母は話ながらも次々と餃子を作り、あっという間に大量の餃子が包み上がった。
「さて、焼き始めますか。咲ちゃん、お手伝いありがとうね。」
母は包み上がった餃子を乗せた大きな皿を二つ、そして餡が入っていたボウルや使用したスプーンを器用に持ち上げ、台所へと去っていった。
きっと母が日々行っている、独自の効率的な家事は、時間をなんとか節約しようと頑張った、母の努力の結果なのだろう。
それにしても私は驚きの事実を知ってしまった。嫌いな睡眠を毎日12時間も行う母は、きっとかなり精神力が強いのだろう。私が言い負かされるのも仕方が無い。
続いて、二人目は兄である。
私の兄は物事に熱中しやすく、クソが付く程真面目である。
一見すると素晴らしく映る私の兄であるが、私たち家族はとても、物凄くこの兄を恐れている。
理由は簡単である。
兄は熱中し過ぎるあまり、直ぐに周りが見えなくなる。そのため本人の意思とは関係なく、家族を巻き込んでしまうのである。兄の行動を例えるなら、きっと暴れ牛が、本能のまま突き進む光景がぴったりだと私は思っている。
そんな兄がどうして睡眠に問題を抱えるようになったかというと、これもまた至極単純な理由で、とにかく徹夜をし過ぎたからである。
打ち込む事が出来ると、なりふり構わずやり続ける兄は、早くも小学生の頃から徹夜を開始していたという。
ここで昔の話をしよう。
私はこの時の話をよく、おばあちゃんから聞かされている。兄の熱中行動は幼い頃から有ったのだというが、心底心配させられたのは兄が習字に熱中した時だったらしい。この時兄は小学2年生であった。
習字に熱中した兄の突進は凄まじく、毎日毎日とにかく字を書いていた。
右手が腱鞘炎を起こしても、書き続ける。病院の先生に散々忠告されても止めない。見かねた母と祖母が、習字道具を隠しても、何時間も、時には数日をかけ、結局探し当てる。
1年間兄は習字に熱中した。そして痛めた右手の代りに左手でも字を書き続けたことで、兄は両利きになった。
しかし、この習字熱は私たち家族に「心配」という影響を与えたが、それだけで済んだ。私が、いや、兄以外の家族全員が一番、記憶にこびりついて離れない兄の熱中と言えば、ズバリ「ハムスター熱」であろう。このハムスター熱にはかなり参った。まだ幼稚園の年長さんであった私にさえも、迷惑、困惑、恐怖の波は容赦なく襲って来た。
引き金となったのは、兄の友達の家で飼われていた、一匹のハムスターである。
この時、兄は小学生の高学年であった。
ハムスターを猛烈に好きになった兄は、両親を説得しまくり、とうとう、一匹のハムスターを手に入れ、毎日毎日飽きることなく眺めていた。そして兄は次の段階へと移行した。つまり、もっとハムスターが欲しくなったのだ。ハムスター飼育セット一式を手に入れているため、このステージへの移行は兄一人で進められた。しかしながら、ハムスターと言っても、値段はそこそこに高い。小学生の兄がぎりぎり買えたのは、二匹のハムスターであった。
この追加で飼われ始めた二匹のハムスターであるが、兄的には幸運、家族的には不幸なことに、揃ってメスであった。ちなみに兄が最初に飼っていたハムスターはオスである。
その後、ハムスターたちはどうなったかと言うと、皆さんのご想像の通り、どんどんと増えに増えた。私も姉も初めの頃はハムスターの小さな可愛い赤ちゃんを見て、とても嬉しかった。
ハムスターの子育ては、小さなお母さんが更に小さな子供たちをせっせとお世話するという、全てがとにかく可愛い世界なのである。高校生と幼稚園児の、可愛いものが大好きな女の子たちが嬉しがるのは、無理もない。私と姉が嬉しがったことも、きっと兄の「ハムスター熱」に拍車をかけたに違いない。
ハムスターが増えたことで、当然、ゲージは狭くなる。しかし、最初、両親は新しいゲージを新たに買い与えることをしなかった。きっとこれ以上ハムスターが増えることを止めたかったに違いない。だが、ハムスターの飼い主は兄である。止まるわけは決して無かった。
増えたハムスターたちを飼うゲージの代わりとして、兄は身近にあったダンボール箱を使用した。きっと、深めの箱であれば大丈夫だと思ったのだろう。
兄はまだ考えの浅い小学生だったのだ。
結果は当然、無残であった。
ハムスターたちは、ダンボール箱を噛みに噛み、あっという間に穴をたくさんこしらえて、ぞろぞろと脱走した。
ハムスターは夜行性である。
兄はぐっすり夢の中である。
次の日の朝、初めに事態に気が付いたのは祖母だった。
祖母は起きると直ぐにテレビをつける習慣がある。その朝も、朝食を作るために一番早くに起きた祖母は、テレビのリモコンの電源ボタンをかちりと押した、が、テレビがつかない。リモコンの電池が切れたのだと、テレビ本体の電源を押すため、祖母はテレビに近づいた。その時、テレビ台の下から小さな生き物たちがサーッと一斉に逃げ出した。
ネズミだと勘違いをした祖母(ネズミが嫌い)は恐怖に叫んだ。
この日、ハムスターたちに齧り切られたコードはテレビ、冷蔵庫、電子レンジであった。小さな集団によって、高額な家電たちが一夜にして廃棄物と変えられてしまったのである。
この時点で私と姉は、ハムスターに恐怖した。いや、正確には、ハムスターでは無く一晩で3つの家電が壊れた事による混乱と怒りと絶望を味わっていた大人たちが恐かった。
この事件が起こったことで、兄は当然ハムスター飼育を⋯止めなかった。
ハムスター脱走の原因が、兄自作のダンボール箱ゲージであると知った両親は、直ぐに新しい大きなゲージを購入した。つまり諦めたのである。そしてゲージは次々と増え、兄が中学に上がり「剣道熱」が始まるまで、我が家はハムスター屋敷と化していた。
さて、随分と長く話がそれてしまった。兄の昔話はここで終わりにする。
本題つまり、兄の睡眠問題に話を戻すとしよう。
現在兄は浪人2年生である。
かの有名な日本最頂点の大学に入学すべく、日々激しく勉強に励んでいる。
兄は元々、さほど勉強好きでは無かった。
きっかけを与えたのはまたもや兄の友達であった。友達と呼べるほど、兄は彼と親しくは無かったらしいのだが、とにかくその友達に薦められ、何となく借りて読んだ受験漫画の世界に兄は、どっぷり浸かってしまったのである。
今現在も兄は、頭の先から足の先までその世界に浸かっており、一年ほど前から、徹夜のし過ぎが原因であろう、完全な昼夜逆転生活を送っている。
兄曰く、夜に勉強した方が雑音も無いし快適であると。
兄は昼夜逆転という、不健康極まりない生活を送っているというのに、自身の体調管理に人一倍気を使っている。
「お兄ちゃん、運動不足を心配するよりも、朝になったら起きて、夜になったら寝るようにした方が、絶対に体に良いよ!」
夕方だが、兄にとっては早朝のランニングに向かおうとする、その背中に私は話しかけた。
兄は振り向いて私を見た。そしてため息を一つ、ついた。
「まあ、そうだろうな。俺だって知ってはいるんだ。良くないって。⋯でもな、結局、どういうわけか、この生活に馴染んでしまうんだ。だからな、俺は他に出来る事をして、しっかりと勉強に取り組める身体をつくっている。うん。あれだよ、ポジティブな諦めってやつ。そんな顔で心配するなよ。ばあちゃんだけじゃ無くお前まで不眠症になられたら俺、迷惑な孫に加えて、悪いお兄ちゃんになっちゃうじゃんかよ。とにかく、お前は健康的な生活を送って、安らかに眠って、健やかに育ってくれ。以上。じゃあ、お兄ちゃんは走ってくる。」
兄は去っていった。
一応進学校に通っていた兄である。頭は決して悪くない。だからきっと、無事に大学に入学を果たせたらなら、兄は元の生活に戻ることが出来るはずだ。
つくづくと感じるのは、私の兄はとってもこの世の中では、いや、どの世の中でも生きにくいであろうということだ。
続いて三人目は、私の祖母である。
とある冬の終わりの日曜日。
私と祖母は2人で、コタツに入りながら午前10時のお茶の時間を過ごしていた。両親はデートに出かけ、兄は部屋でぐっすりと眠っていた。
私は軽いお菓子をつまみながら、祖母の淹れてくれた、綺麗な色の緑茶を飲んでいた。
祖母もお茶を飲んでいたのだが、時おり眠そうなそぶりを見せていた。
祖母曰く、自分は不眠症であると。
私の部屋と祖母の部屋は、畳の敷きつめられた和室で、そして隣り合っている。
和室の構造上、私と祖母の部屋は襖で仕切られているのみとなっている。私と祖母は一人で眠るのがあまり好きではない。ので、夜に眠るときには、襖を開けっ放しにし、一緒に寝るスタイルが多い。そして私は毎日の様に祖母の素早い寝つきに感心している。しかし、祖母は早朝に目覚めてしまう事、毎日夜中に数回、目が覚めてしまう事など、眠れない時間の方に意識が集中してしまっている。そして隣の部屋で眠る私は、おばあちゃんが必要量の睡眠時間をしっかりと取れている事を知っている。
要するに、おばあちゃんの睡眠問題は、「自分は不眠症である。」とすっかり思い込んでしまっていることだ。私が何と言おうと、おばあちゃんの思い込みは深く、効き目が無い。おばあちゃんのこの問題については、私は半ば諦めぎみになっている。
場面を元に戻そう。
とある日曜日である。
和やかな光が、部屋の空気をほんのりと温かくしており、本当に居心地の良い日であった。
眠そうに眼を細める祖母に、私は声をかけた。眠いのなら寝ればいいのだ。
「おばあちゃん、ちょっと横になったら?コタツに入って寝ればあったかいからさ。」
おばあちゃんはお茶を一口飲むと、ため息をついた。
「おばあちゃんはな、お昼寝がどうにも苦手なんだよ。不思議なもんで今は有る眠気がな、横になるとすっかり無くなって、目が冴えてしまうんだよ。」
おばあちゃんはまたため息をつくと、ぬるくなってきたお茶をごくごくと飲んだ。
「目が冴えるならそれはそれで良いんじゃない?眠いのに起きてる方が大変だよ。コタツの温度、上げたからさ。ちょっと寝てみなって。」
曖昧な返事をしてお茶を飲んでいたおばあちゃんであったが、結局横になり、コタツにすっぽりと入って目を閉じた。
私はお茶のおかわりをすべく、ポットのお湯を急須に注いだ。お茶を蒸らす間、私はテーブルの上のお菓子を何となく眺めていた。
「ゴッ」
おばあちゃんの鼻が鳴った。
様子を見てみると、おばあちゃんは気持ち良さそうにグーグー寝ていた。
その後、おばあちゃんは約40分の間、ぐっすりと眠り、パッと目を覚ました。そしてため息をつき、よっこらせ、よっこらせと起き上がった。
「な?目が冴えて全然眠れやしないんだよ。全く、少しでもいいから眠れれば体の疲れもとれるもんなのになぁ。」
おばあちゃんは私に、また昨日の夜も十分に眠れなかったと愚痴をこぼし始めた。
私はうんうんと頷いてそれを聞いた。
眠れているならそれで良し。かな?
最後に、私の父と姉について話していこうと思う。
この二人は性格というか、思考パターンというか、とにかく似たもの親子である。
したがって、二人とも同じ睡眠の問題を抱えている。それは、何時でも何処でも深い眠りに入ってしまうという、かなり厄介な問題である。
何処でも寝入ってしまう彼ら二人であるが、実は神経質なたちであり、日常生活を適当に送ることが苦手である。二人の前には、常に「気になること」がゴロゴロと転がっており、対処しないではいられないのだ。
神経質な彼らがどうして何処ででも寝られてしまうのかという理由なのだが、私は精神疲労のせいだと考えている。
神経質であるということは、通常の、一般的と言える人間なら気付きもしないであろう苦労を、望まないにもかかわらず背負い込み、日々もくもくと生活しなくてはいけないということである。
例えば父の場合、数字やカレンダーに書かれた「大安」「赤口」「友引」「仏滅」などの縁起にとても敏感である。
父にとってのイベント、例えば床屋に行くという日には、できるなら「大安」「先勝」、まあ良いのが「赤口」「友引」、絶対に避けるべきなのが「仏滅」「先負」と決まっている。続いて数字は、何故かは知らないが、4と6と7が父にとって不吉な数字であることから、これらの数字が入っていない日、12日や15日などが選ばれる。
したがって、父が床屋に行くことが可能なのは仕事が休みの土、日、祝日で、お日柄が良く、4と6と7が入っていない日に限られる。しかし、これに加えて「夢見」も父にとっては重要事項であるようで、お日柄や数字がとても良い日だとしても、「夢見」が悪いともう何処にも行けなくなってしまう。その為、父の髪は日常的に伸び過ぎている。余りにも伸びてしまった時は、母が父の髪を切るのだが、母の迷いの無いハサミさばきによって、父の髪型はかなり残念な仕上がりになる。父にとっても母の作り出すヘアスタイルは残念に思われるようで、母による散髪は父の最終手段として行われている。
床屋に行くだけでこれなのだから、家族旅行に行ける日もかなり少ない。いや、少ないというレベルでは無いのかもしれない。と言うのも、家族で旅行に行けるのは3年に一度行けるかどうかという低頻度なのである。幼稚園や小学校に通っていた頃には私も、随分と不満を持っていたものである。友達が遊園地や動物園、水族館など、子供にとって魅力的な場所に何度も連れていってもらえていると言うのに、私のお父さんやお母さんはどうして私を連れていってくれないのかと、幼い頃の私はいつも心の中で不満を抱えていた。そして時おり、溜まりに溜まった不満が爆発し、泣きわめいていたことも覚えている。しかし、どんなに私が騒いだところで父のこだわりがゆるくなったり、変わるなんてことは無かった。そのため私は思う存分泣きわめき、スッキリしたところで諦めるという何とも悲しい行為を繰り返していたのである。
ここで疑問が生まれた方もおられると思う。
父が行けないのであれば、母かあるいは祖母、そして年の離れた姉のいずれか3人に連れていってもらえば良いのである。
旅行と言えるほど遠くの場所は無理であっても、電車に乗り一時間ほどで行くことが出来る水族館や動物園には行けてもいいはずなのである。
しかし、ここが父のめんどくさいと言うか、心配性と言うか⋯やはりめんどくさいところで、自分が不吉と思われる日に家族が出かけることもとても嫌うのである。
父曰く、不吉な日に子供が遠出をするなんてとんでもないことである。心配のあまり、自分の仕事に差し支えてしまうから、行くのなら良い日を選んで行きなさい。しかし、いくら良い日だと言っても幼稚園や学校を休んで行くことは禁止する。ずる休みは癖になりやすい。だから子供たちには一度たりとも経験させてはならないと。
子供にとっては迷惑この上ない主張である。
さて、話を睡眠の問題に戻すとしよう。
以上のように、神経質である。ということは、とてつもなく疲れる。もちろん、私は神経質であることの疲労を知らない。しかし、見ていれば、家族として長い間共に暮らしていれば、その疲れを感じとることが出来るようになる。まあ、彼ら二人の、目の下にくっきりと在るクマの大きさや、その力無く曲がった背中を見れば、家族で無くとも、その疲労度が分かることであろう。
人間疲れれば眠くなる。
眠気というものは時に、暴力的に襲いかかってくる。
疲れていればいるほど、眠気のその凶暴さは増す。抗えない。
次は姉の場合を例としよう。
姉は県外の高校に通っていたため、毎日の移動手段として電車を利用していた。
テレビではよく、日本人はたとえ熟睡していたとしても、電車が自分の降りる駅に着くとスッと目を覚まし、何事も無く帰路につくと言われている。
一応姉にも当てはまっていたようで、姉は電車に乗れば必ずぐっすり寝てしまうというのに、乗り過ごしたという話はまあ、10回ほどに収まっている。三年間で10回なのだからきっと、少ない方なのであろう。
しかし、熟睡したまま電車に乗り続けると言うのは、やはり危ない。
事件が起きたのは、姉が高校二年生の時であった。いつものように姉は電車の中で熟睡しており、そしてたまたま終点まで乗り過ごしてしまった。車掌さんに起こされた姉は、乗り過ごしてしまった事に気が付き、足りない電車賃を支払うためにバックの中から財布を取り出そうと⋯
バックが無い!
姉はバック丸ごと、つまり荷物全てを盗まれていた。
その時は、優しい車掌さんのおかげで、かなり動揺していた姉は救われた。しかし、相当にショックであったらしく、姉はストレスによる蕁麻疹を発症し、それから一週間学校を休んだ。
姉は電車での通学と自分の眠り癖に恐怖を感じるようになった。まあ、そうなるであろう。
しかしながら、学校に通う為にはどうしても電車に乗る必要が姉にはあった。ので、姉は自分と同じ駅で降りる数人の人たちに声をかけ、事情を話し、駅に着いたら起こしてもらえるようにお願いした。
姉のこの作戦は上手くいき、姉は無事に高校を卒業することが出来た。めでたし。
成功談になってしまったが、姉と父、そして私を含めた家族全員が何時でも何処でも熟睡する二人をとても心配している。
どうやら何もするべき事が無い状態になると、暴力的眠気が二人に襲いかかるようである。彼らはやはり神経質なために、自分の気になることが一つでもあると目はギンギンに冴えわたり、一心にそのことを考え続け、見続ける。
兄は兄で大変だが、姉は姉で、父は父で大変に暮らしている。兄と同様に、いや、超えているかもしれない、とにかく、とてもこの世の中では、生きにくい人たちなのだ。
私の話は以上で終わる。
今のところ私は健康的な睡眠をしっかりとれている。しかし、私にも両親から受け継いだ睡眠問題の血がドクドクと流れ続けている。これからどうなるかは分からない。願わくば、これからも普通に眠って暮らしたい。